沖縄県立沖縄盲学校進路指導部 作成: 2022年10月 学校紹介 本校は、沖縄本島南部の南風原町(はえばるちょう)に立つ、視覚障がいのある幼児児童生徒のための特別支援学校です。令和3(2021)年5月に創立100周年を迎えました。 昨今の在籍者数の減少の中、毎年各学部の児童生徒の実態も変わり、令和4年度は全校生徒45名(幼稚部3名・小学部9名・中学部6名・高等部普通科13名・専攻科14名)が通っています。 小中学部及び高等部普通科では、一般学級(準ずる教育)で11名が、重複障がい学級で17名が学んでいます。学習の方法は、点字を使用する者9名、墨字(活字)を使用する者6名(一部は点字・墨字を併用する者)という状況です。また知的や肢体不自由障がいなどを併せ持つ幼児児童生徒の割合も48%を超えており、児童生徒の実態とニーズの多様化に対して個別の対応が求められているところです。 見えない・見えにくいことって 視覚障がい児(者)にとって、日常の生活や学習、社会参加の場面、ひいては就労におけるハードルをどのように感じるかと言えば、見えにくさからくる困り度の連続だといえます。一例を挙げると、商品パッケージ記載の説明が確認できない、道路工事の標識や注意看板が認識できず歩行で危険を感じた、窓口対応業務でうまく援助が受けられない困難さ、初めての場所では状況の把握が難しく支援無しでは動けないことなどがあります。さらにアルバイト先を含め視覚障がい者の求人は皆無といっていいでしょう。 このような現実に向き合うと共に、本校では自立活動の時間に、白杖による単独歩行や点字の読み書き、レンズ・拡大読書器などの視覚補助具のスキルを身につけ、周囲に援助を依頼することで必要な支援を受けやすくし、社会参加する準備を整えています。また、PC・タブレット・スマートフォンが画面読み上げ・画面拡大機能で利用可能となり、サピエ(点訳・朗読されたデータをオンラインまたはダウンロードするインターネット上の点字図書館)の整備により読書環境が充実し、得られる情報量も格段に増え、学習環境や趣味も広がっています。さらに視覚特別支援学校(以下盲学校)に設置されているあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師(以下あはき)の養成コースで、あはきの資格取得を目指すことで職業的自立を進めています。 本校教育は、長年これらの育成に関わり、視覚障がい児(者)にとっての「生きる力」について改めて捉え直すと同時に、盲学校としての強みを発揮すべく試行錯誤を繰り返しているところです。 本校、進路指導の取り組み 児童生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択することで、卒業後の自己実現に近づけられるよう、教育活動全体を通じて組織的かつ計画的な取り組みを行っています。 その柱は、 ①個々のニーズに応じた進路指導、②小・中・高一貫したキャリア教育、③事業所見学・就業体験・職場開拓の充実、④保護者や関係機関などと連携した進路選択及び決定に向けた取り組み、⑤高校・大学など進学希望者への受験指導、⑥あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の輩出となっています。 以下、各学部での取り組みと進路指導部としての実践を紹介します。 なお、令和2年から新型コロナウイルス感染拡大防止のため、校外の活動を一部変更して実施しています。 小学部 【なりたい自分になろう】 一般学級6年生では、保護者の職場や児童の興味のある仕事の職場見学・体験について実施しています。受け入れ先は、児童の実態に合わせて計画し、今回は保育士とスポーツマッサージの体験を半日行いました。事前学習では、社会の一員として基本となる挨拶や礼儀作法の大切さを学び、事後学習では「どんな気持ちで働いているのだろう」といった働く人の内面まで踏み込んで考えるなど、児童一人一人が「仕事とは」「働くとは」という問いに対し、自分なりの考えを深めていくことを重視しました。 【挑戦することの大切さについて】 4年生の総合的な学習の時間の中で、車いすトラベラーとして活動されている方と観光協会に勤めている弱視の方を招き、自身の障がいとどのように向き合い、挑戦しているのかについて話しを聞きました。児童からは「車いすなのに、一人で世界一周に挑戦してすごいと思った。僕も挑戦できる大人になりたいと思った。また僕も同じ弱視だけど、見え方は違うんだなと思った。」との感想が見られました。また、オンラインでの合同授業で共に学んでいる沖縄ろう学校の児童との関わりにおいては、オンライン学習で交流を深めた後に合同で社会科見学に出かけた際、本校児童が学芸員の話をろう学校児童に対して筆談で伝えたり、逆に手引き歩行のサポートをしてもらうなど、お互いに協力し合いながら学習する様子が見られました。いつもは「支援してもらう側」になることが多い本校児童にとって、相手の立場に立ち、自分にできるサポートは何かを考える良い機会となりました。 【ドリームツリー】 6年生の3学期には、これまでの学習を「ドリームツリー」にまとめ、自分の生い立ちや頑張ってきたこと、自分の強みや将来の夢などを一枚の画用紙に書き出していきました。児童からは「今までいろんな人に支えられてきたんだなと思った」「大学か専門学校に行って保育士になりたい」などの声を聞くことができました。 中学部 【進路についての現実的探索】 一般学級では、生徒自身の自己理解と自己有用感の獲得を育むと共に、興味・関心から来る職業観・勤労観の形成を図る中で将来の進路選択に繋がる活動を計画しています。今回、就職の窓口となる「ハローワーク」を取り上げ、実際にハローワーク職員よりオンラインで講話を実施したところ、生徒から「全盲の方で、自動車関係の仕事に就いている人はいますか?」などと関心のある職種について質問が出て、就職についてイメージする機会となりました。また中学部を卒業し高校に進学した先輩や現在飲食店に勤める卒業生からの講話や、本校の上級学科である専攻科についての進路学習会を行い、卒業後の仕事や生活の様子を聞くことで、自らの生活と向き合い、卒業後の進路を具体的に考える時間となったようです。「先生の講話の中で印象に残っているのは就職について。専攻科を卒業し、ヘルスキーパー、治療院などへ就職し、視覚障がい者が社会へ自立していけるとても素晴らしい職業だと強く感じた。」などの感想が上がりました。 【キャリア形成に繋がる就業体験】 毎年、重複学級の3学年は福祉事業所での実習・体験を実施しているところですが、今年度は内容を変更し、総合学習の取り組みの一環として、点字用紙コースター制作、清掃活動、農作業などの校内就業体験を行いました。日ごろより長い就労時間を体験し、就労の心構えを学び意識を高め、生産物の仕上げ作業などを通して多くのことを体験する機会になりました。夏休みに実施している一般学級2学年の校外就業体験については取りやめとなっています。 高等部 普通科 【校内実習・校外での就業体験を通して】 現場で働く体験や福祉サービス事業所等での活動を通して、就労に必要な基礎的な能力や働く意欲、社会参加しようとする態度を育てること、自己の進路についての興味・関心や適性・課題を知り、進路選択の見通しを立てること等を目的に、1年は校内実習、2・3年は、就業体験を計画しています。生徒の進路希望先としては、本校専攻科進学の他、大学や専門学校への進学、就労継続支援、生活介護と多岐にわたり、そのため就業体験先は、本人や保護者の意向を十分に踏まえると共に、関係機関との連携を図り一人一人のニーズにあわせて決定しています。今年度は3年ぶりの就業体験を実施し、11名の生徒に対して18箇所の事業所・企業の協力がありました。 【進学を見据えた指導】 福祉系大学への進学を希望する生徒は、地域の社会福祉協議会で就業体験を行いました。その結果、福祉関係の職業に就きたいという生徒の思いもますます高まり、大学受験への動機付けにも繋がっています。専攻科への進学を希望する生徒については、卒業生が開業している治療院での就業体験を行いました。施術の見学や院内の清掃業務の体験以外にも、心構えや生きがい、健康作りについても聞くことができたことで、卒業後の自分像を思い描くことにつながった他、保護者も我が子の将来に期待が高まったようでした。 専攻科 【国家試験対策とスキルアップ】 全国の盲学校専攻科にはあはき師を養成する3年間のコースが設置されています。先天性の眼疾患や進行性の視力低下・視野欠損を生じた者が、新たな職業自立を目指して専攻科に入学してきます。医学系の専門的な内容について、拡大文字・点字・音声・データを実態に応じて使用して学び、教師は視覚情報を言葉に代えながら、触って分かりやすい模型や十分な時間を確保しつつ授業を進めているところです。また、本校内の治療室や視覚障がい者が開業する施術所、デイサービスなどの高齢者施設、企業内マッサージルームなどで実習や見学を実施し、あはき師としての資質を身につける取り組みを実践しています。近年は、本校全員が国家試験に合格し、免許の取得で自信と覚悟を持って就職へと繋げることができています。 【天職と言えるはりきゅう・マッサージ】 江戸時代中期より日本各地で盲人に対するはりの講習が始まり、150年前には現在のような盲学校教育が始まった歴史があります。視覚障がい者を採用する一般企業が認められない現状では、あはき師は視覚に頼らず、手と心を用いて行う仕事として、視覚障がい者が自立できる大変貴重な職業と言えます。 寄宿舎 【キャリア教育】 卒業生講話を実施し、入舎経験のある卒業生による、就職先での仕事や1日の生活の様子、また社会に出た際の困難さや在学中の勉強法、寄宿舎生活の活用法など、様々な内容を盛り込んだ内容が実際に聞けることから、舎生にとって現在から将来に繋がる貴重な情報を得る時間となっています。 【学部との連携】 寄宿舎では、児童生徒の現状、課題、卒業を見据え身につけたい力について、日頃から個々に応じた日常生活における支援・指導(入浴、洗濯、清掃、整理整頓等)とともに、保護者や学部職員との連携に努めています。登校時の学級担任への確実な引継ぎ、「個別の教育支援計画」「個別の生活指導計画」を用いた担当職員間での情報共有及び詳細の確認、学舎情報交換会等を実施しています。 保護者・教職員向け学習会 校務分掌の進路指導部として、以下の行事(学習会)を企画しています。 【福祉サービス事業所見学】 就労継続支援や生活介護を希望する生徒や保護者については、在学中から卒業後の生活をイメージしてもらえるよう夏休み期間に福祉サービス事業所見学会を計画しています。県内には視覚障がいに特化した事業所がほとんどなく、また、生徒の居住地域が離島を含む広範囲にわたるため、地域の福祉サービス事業所についての情報が少ないのが現状です。そこで、県内の各特別支援学校の進路指導部や市役所の福祉課、計画相談事業所等から情報を得ながら、見学する施設を検討しています。見学依頼にあたって感じたことは、視覚障がい者の受け入れ実績はないが、その支援について知りたいと考えている事業所が多いということでした。視覚障がい者は他の障がい種に比べて少なく、福祉の専門職の方でも、視覚障がいについての専門知識や支援事例が極端に少ないことから、福祉サービス事業所見学会をきっかけに視覚障がい者に対する理解を求め、卒業後の居場所を広げていくことも盲学校の使命だと強く感じています。 【卒業生の活躍を記録した動画】 施設見学を実施できない状況下において、最近の卒業生が就労している様子や本人のインタビューを撮影し紹介動画を作成しました。また、筑波技術大学在学中の卒業生に大学紹介動画を依頼しオンラインによるインタビューも収録しました。学部ごとに保護者と他学部の教職員を交えた個別の進路学習会を実施することで、進路について共に考え、情報を共有する機会となりました。